コダクロームフィルムで見るハートマウンテン日系人強制収容所
写真:ビル・マンボ、編者:エリック・L・ミューラー、訳者:岡村ひとみ
2014年7月、紀伊国屋書店 刊
写真の凄さ、怖さを知らされる本。写真を撮ったビル・マンボは日系二世であり、このハートマウンテン収容所に収容されていたひとりであり、アマチュアカメラマン。70年前の収容所の日常を、色鮮やかなスライド写真が現代によみがえらせてくれた。
収容所では、当所入所者の写真機は没収されていたという。カメラは戦時下にあっては危険な機器とみなされるのである。同時に、写真は重要な広報戦略の道具でもあった。だから収容所には当局に雇用されたプロのカメラマンがいたりもした。収容所政策の正当性を訴えるためである。
ビルはそれらの政策的な意図とはかかわりなく、自分の家族を主に写している。家族の成長の記録、日常のひとこま、あるいは過酷な生活の中のハレの日の記念写真である。しかし、70年後、ビルの意図とは関係なく、貴重な歴史資料として多方面からの見方をされることになる。
ハートマウンテン山を背景とした荒涼とした乾燥地帯に、鉄条網で区画された一角に立ち並ぶ黒い縞模様の建物。屋根は切り妻であり、縞模様の外壁はタール紙であるという。写真を詳細に見ると、合板か板にタール紙を貼りつけたものを外壁材として貼りつけ、それを細い縦胴縁材で押えてあるようだ。遠目で見るとシンプルなモダニズム建築のようでもあるが、実際はバラックと呼んだ方がいい建物のようだ。
過酷な収容所暮らしにあっても、ビルのファインダーにおさまるビルの家族たちは、身だしなみがきちんとしていて、当時の日系人の矜持や写真に対する感覚を感じさせてくれる。
本書には美しい写真の他に、撮影者のマンボと被写体となったその家族たちの詳細な記録や、全米に10箇所あったという日系人収容所の歴史と政策・背景などを詳細に論じたすぐれたテキストも収録されている。
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