「新国立競技場、何が問題か」
編著者/槇文彦・大野秀敏、2014年3月発行、平凡社、1400円(税別)
副題に「オリンピックの17日間と神宮の杜の100年」とあり、執筆者は他に元倉眞琴、古市徹雄、陣内秀信、宮台真司、吉良森子、越澤明、松隈洋、進士五十八、森まゆみ、長島孝一の面々。
ザハ・ハディドの設計した優美な新国立競技場が問題にされている。日本を代表する建築家である槇文彦氏が提起したものである。それは、デザインの優劣ではなく、あの場所=神宮の景観にそぐわない、つまり過大すぎるという内容だ。
その後、それを実現するための莫大な予算のことがマスコミでも取り上げられ、文科省大臣などもニュースでコメントを出していたり、削減・縮小案が示されたりしていた。
副題にある「オリンピックの17日・・・」というのは、世紀のイベントと言ったって、オリンピックはたかだか17日間でしかない。それを神宮の歴史100年が築いてきた都市景観・空間を大きく損なってまですることか・・・という意味だろう。
槇氏はザハのデザインを非難しているのではない。問題はそのコンペのプログラムにあると言っている。8万人の観客数、延べ床面積29万㎡に及ぶその施設規模を過大であると問題視しているのである。たしかに、東京有数の良質な都市景観を保持する神宮外苑の一角に位置するこの敷地に、とても適した規模ではなさそうだ。たとえば、お台場・有明などの東京湾の沿岸部に海を背景としてなら似あうかもしれないが、この神宮の杜にはミスマッチだろうという指摘であり、オリンピックという一過性のイベントに使用する施設に適した恒久性を問うている。
代官山というすぐれた景観をもつ街をひとりでつくりあげ、国立競技場に隣接する東京体育館で周囲の景観に配慮した設計の経験をもつ槇氏の言葉だけに説得力がある。
本書は槇氏らが昨年10月に東京で開催したシンポジウムの内容が主であり、敷地である外苑や明治神宮の歴史から丹念に説き起こされている。
巻末には、その後(同年11月)文科省、東京都、日本スポーツ振興センターの三者に提出された要望書が添付されている。要望書は103名の賛同者を得ており、その代表者は槇氏となっているが、発起人、賛同者の顔ぶれをみると、日本を代表する建築家・建築評論家・都市計画家・社会学者やプランナーなどそうそうたる名前が連なっている。
建築界の自由な論壇の維持と活性化のためにも、みんなで考えてみればいい。
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