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2011年3月 5日 (土)

設備設計一級建築士証

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※顔は写真写りが悪かったので、ここではブログの写真に貼り替えてあります。現在は一級建築士証もこのようなカード型になっていて、携帯して提示するようになっています。

設備設計一級建築士なる資格が創設された。おなじく、構造設計一級建築士もできた。これまでは一級建築士が建築設計では最上位かつ唯一の資格であり、これがあれば設計の法的資格としてはオールマイティだったのだが、一定の規模を超える建築には、設備設計及び構造設計一級建築士の関与が要求されるのである。

具体的にいうと、設備の場合は3階建てかつ5000㎡以上の床面積をもつ建物は、従来の一級建築士のほかに、設備設計一級建築士の関与が必要であり、建築設備の設計は設備設計一級建築士が設計しなければならない。ただし、一般の一級建築士の設計したものでも、設備設計一級建築士がその設計図書の法適合性を確認して記名押印すればよいということにもなっている。

構造も同様だが、一定の規模というのがその構造種別ごとに分かれ、設備一級とはその規模が違っている。さらに、建築確認申請で構造適合性判定を要する案件、いわゆる適判というやつがあり、それと名前も似ているが、似て非なるものであり、要求される規模条件も微妙に異なっているのでさらにややこしい。

おそらく、日本国におびただしくある法令のなかで、建築基準法がもっとも難解・複雑化したものになっているのではないだろうか。もしかしたら世界一かも。このままでは、法律判定一級建築士という資格が必要になるかもしれない。基準法、省令、規則と細分化され、さらに無数の告示がそれを補完して、またまた消防法、都市計画法などなど制約を受ける関連法規も多い。さらに、なにか事件事故が起こるたびに、あるいは社会の動向などに応じて、複雑に改正と緩和がくり返されている。それら必要な法規集をひととおりそろえると、広辞苑に匹敵する(それ以上だろう)分厚さと字数を誇る。

それがまた、建築の設計において無限におこりえる、あらゆる場面に通用する厳密な法適用を追求(できるわけがないが)しようとして、逆にひたすら読みにくくわかりにくい文言と化している。この法規集をひも解くのは、苦行難行以外のなにものでないと言っていい。建築確認申請は、この難解な法律に適合していることを確認する作業であるが、膨大な法令を熟知している設計者はいない。だから、法解釈は役所(審査機関)の言うがままにしておくという人も多い。

はいはい、わかりました。と指摘されるままに直していけばいいのだから楽である。審査機関は法律コンサルタントだとおもえばいい。だた、設計の根幹にかかわる部分に変更が生じては確認申請の時点では遅すぎる。設計のやり直しになる。そこで、多少ともややこしい物件は事前に周到なチェックが必要だ。さらに、あまりに審査側のなすがままにしておくと、たまにデキのわるい審査担当者にあたった際、とんちんかんな訂正を要求してきたりするので、こちらがあまり法律に無知でも不要な設備と金が過剰に要求され具合がわるい。

ここまでややこしくなってしまったのなら、いっそのことガラガラポンにして、一からシンプルな法体系を構築し直した方がいいような気がする。そういえば、先日受講した「一級建築士定期講習」のテキストの序文には、こんな法律が紹介されていた。

それは、最古の成文法として知られるハムラビ法典の建築規定である。「もし、建築家が人のために家を建て、その工事が強固でなく、建てた家が倒壊し、家の主人を死に至らしめたときは、建築家は死刑に処せられる。もし、主人の子どもを死に至らしめたときは、建築家の子どもが死刑に処せられる。・・・・・・」

構造に関する規定はこれひとつでOKだ。恐れをなしてだれも無茶な設計はしないだろう。この規定ならアネハ氏は死刑かというと、そうでもない。だって、壊れた案件はない。役所が壊すように命じた案件は多数あるが。おそらく、けっこう強烈な地震がないと壊れなかっただろう。それでも、死人が出たかどうかはわからない。ただし、法典の続きには、「家財が損傷したときは、弁済または修復しなければならない」的な記載が続くので、アネハ氏は破産したであろう。

でも、地震で建物が倒壊した場合、その責任は建築家にあるのか、大自然にあるのか、判断は難しい。まして、想像を超える地震に対して必要な強度を確保することが適切な設計といえるのか、悩ましい問題でもある。本テキストの構造担当の筆者も、数十年の寿命しかもたない建築物が、数百年に一度の確率で起こる強烈な地震に対応した設計をすることが経済的に許されるのかと疑問を投げかけている。難しい問題なのである。だから法律で一定の基準を定めざる得ない。壊れた建物をつくったら死刑ならことは簡単だが、それなら建築家は絶対壊れない必要以上に強固な建築を相応のコストをかけて造るしかない。また、そこには設計の不備なのか施工のミスなのかという永遠のテーマもついてまわるからさらにややこしい。

やはり、建築法規はややこしくならざる得ないようだ。こうして、設備設計一級建築士というややこしい制度ができて、わたしはややこしい試験問題を解いて資格を得た。そして、わたしが設備設計のエキスパートであるかというと、資格的にはいえないこともないだろうが、そうともいいきれないのでさらにややこしい。

そもそも、ここでいう建築設備とはおそろしく分野が広い。給排水、電気、空調・換気、消防設備、避雷針、排煙設備、エレベーター・エスカレ-ターなどなど、おそらく、建築以外のものはすべて設備なのである。本来、建築設備というのは、おおまかに電気、給排水、空調の3分野にそれぞれ専門分化されている。必要に応じてエレベーター、避雷針が付け加わることもあるが、それぞれ専門分野の世界であり、それらの設計を兼務する人はほとんどいない。空調は電気屋さんか設備屋さん(給排水を担当する人をこう呼ぶことが多い)が兼務することも多いが、壁掛けや天カセなどシンプルかつ小規模なエアコンの場合であり、建物内に縦横にダクトを廻し、高度な空調システムを設ける場合は空調の専門家の手が必要である。

それぞれ分野ごとの専門家が複数いて成り立っている設備の分野を、ひとりの設備設計者がすべて知り尽くしていることはあり得ない。構造だって厳密にいうと鉄骨構造の専門家だったり木構造、あるいはRC造だったり得意分野や専門分化がないわけではないが、計算だったら、かなりの構造設計者が複数の構造をこなすので設備とはちょっと違う。構造の場合は、構造ごとにそれぞれの専門家が設計するが、最終の計算結果だったり、法的な適合性は構造一級が統括しチェックするという役割を果たすということになるのだろうか。

つまり、設備設計一級建築士にしろ構造一級にしろ、オールマイティではないのである。たぶん、電気は詳しいが給排水はあまり知らない、木造は強いがRCはどうも(あるいはその逆だったりたくさんの組合せがある)的な人がほとんどであろう。空調の専門家は、得意の空調以外の設備知識を講習で得て、試験をクリアして資格を取るのである。つまり、広く浅くでいいのである。広く深くは不可能であるのだから。

設備(構造)設計一級建築士は、そもそも一級建築士であるから、設備と構造、そして意匠的なこともある程度は理解しているし素養はある。そのうえで設備に関して一定の幅広い専門知識と思想をもち、その立場で設備と意匠、構造とをコーディネートする能力も期待できる。そういう人物にある程度の規模を超える建築の設計には関与してくれることが望ましい。設計ミスも複層的にチェックできる。これが新資格を定めた法の趣旨だろう。(端緒はアネハ氏の金とモラルの問題なのだが、こうして高尚な議論に置き換えられる。)

それはそれで理想的な話であるが、でも実際はなかなかそうはならない。多くの場合、設備設計一級建築士は法適合判定だけを担うだろう。すると、設計が終了した最後の段階で法的なチェックをするだけのことであり、意匠も構造もコントロールや調整もしない。ルーティン業務として単なるチェックをするだけであり、資格にみあう報酬を請求するだけだ。

やはり、法の趣旨を尊重するには、設備設計一級建築士が設計の初期の段階から関与するべきであろう。構造についてももちろんだ。しかし、同様のことは現在の(はるか以前から)設計界ではすでに当然のことでもある。大規模及び高度な建築物は、建築(意匠)、構造、設備それぞれの分野の設計者が設計の初期のころから複数関与し、協働で設計している。(※もちろん、設備(構造)一級の資格に関係なく。)そうしないと設計が成り立たない。小規模な物件でも建築家はそれぞれ専門的な知見を勘案しながら設計している。今回、それが法的に整備され、参加資格が定められたことになるが、法適合判定というあいまいな制度については議論が分かれるところだろう。また、もっとたくさんの建築物に適用させるため、規模要件を引き下げるべきだという意見もあるようだ。これからどうなるのだろうか、まだ今後の制度変更はありうるようだ。

昨日、ようやく手に入れたカード型の資格証をまじまじとみて、顔写真の写りの悪さとともに、そんなことを考えてみた。

それにしても、昨年の12月に申請してやたらと時間がかかった。約2カ月である。こんな仕事をお役所仕事というのかもしれないが、相手は日本建築士会連合会である。お役所ではない。しかも、申請と受取りの両方とも出先機関のある宮崎市まで出向かなければならない。申請時は書類のチェックがあるので、それでも理解できるが、その後は郵送してくれればいいのに、なぜ取りに行かなければならないのか意味不明だ。

そういえば、建築士事務所の登録・更新(5年おき)制度も、その窓口が従来の役所から建築士事務所協会へ手数料付きで移管された。これまで都城市内で申請・受け取りができたものが宮崎市まで行くことになる。仕事が減って監督権限だけ残るので、役所にとっては大歓迎な制度だろうが、申請者には不便を強いることになる。こうして、建築士会と事務所協会も天下り先としては、さらに強化されたのかもしれないが。

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