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2010年6月18日 (金)

祖国と母国とフットボール

2010052644172 慎 武宏 著

サブタイトルが「ザイニチ・サッカー・アイデンティティ」とある。ザイニチとは在日であり、日本にいる朝鮮又は韓国籍の人たちのことだ。主にJリーグで活躍する在日のサッカー選手が多数登場し、在日のサッカーの歴史も詳しくのっている。

現在、南アフリカでサッカーの祭典ワールドカップが開催されていて、そこに行っている北朝鮮代表のチョン・テセ(川崎フロンターレ)が在日Jリーガーの代表格だろうか。彼自身は韓国籍らしいが、なぜか北の代表ということになっている。母親が北出身だったとかで縁があり、他にもいろんな幸運と偶然が重なって北の代表になったことは本書に詳しい。

先日のブラジル戦ではブラジル相手に健闘し、テセはみごとなアシストを決めていたが、国歌斉唱のときに泣きじゃくっていたことが話題になっていた。夢に見たワールドカップが現実となり、感極まったのだろう。

都市部に住む在日の少年少女たちの多くは、朝鮮学校に進学する。小中は知らないが、高校は日本の法律で定める正式な高校とは認められていない。したがって、高校総体や正月の選手権には出場資格はなかった。ところが、その強さは昔から鳴り響いていたようで、関東や関西のサッカー強豪校がしょっちゅう胸を借りに来ていたそうだ。さいきんでは出場が認められているので、ここ数年は関西だったり東京の朝鮮学校が選手権で活躍している。まだ優勝はないようだが、その生徒数と学校数の比率から考えると、驚異的な成績だといってもいいだろう。

朝鮮学校というのは北系の学校である。しかし日本の在日社会ではハングルの習得と民族教育、文化に触れさせるため、北も南も関係なく朝鮮学校に進学することが多いようだ。だから、テセの場合も、韓国ではなく北の代表になることに違和感はあまり感じなかったそうだ。もちろん、これまでに韓国の代表となった在日の選手もいるし、朝鮮高校ではなく、国内の私立あるいは公立のサッカー強豪校を経由して活躍する選手も多数いる。

また、北にしろ南にしろ、在日の選手は、日本人ではないのだが、かといって本国からも距離を感じざるえないお客さん的な存在だという。日本の文化に浸かってはいるが日本でもない、かといって朝鮮・韓国とも違うという状況がある。その現実が副題の「ザイニチ、アイデンティティ」という言葉に集約されている。ザイニチという国籍はないが、それがいちばん適切な表現であり、居場所なのである。

Jリーグには在日枠というのがあるらしい。外国人のプレーヤーは1チーム何人までと決まっているのだが、それ以外に、日本でうまれ育った在日の選手は1チームに付きひとりは、それ以外に出場できるという制度だ。日本における在日の人口は、50万人ほどだという。それでも各チームにひとりづつのその枠がほぼ埋まっているそうなので、たいした供給量だといっていい。

在日から日本国籍を取得してオリンピックの日本代表になった李忠成(サンフレッチェ)も有名な選手だが、本書の最後は彼が締めくくっている。選手の数だけ思想があり、選択肢もある。

北朝鮮と韓国、両国及び日本、ともに今回の南アフリカ大会には出場している。その活躍をテレビで観戦しながら、在日のサッカー文化にも触れてみる。とてもタイムリーな本ではある。

最後に建築に言及しておくと、W杯開幕戦の会場となったヨハネスブルグのサッカーシティスタジアムは竹で編んだ籠のような印象の造形であり、「ひょうたん」がそのデザインのモチーフだというが、ペキンオリンピックの「鳥の巣」をなんとなく思い出させてくれる。「鳥の巣」は日本人の構造技術者が構造設計を担当したそうだが、サッカーシティの方はよくわからない。ネットでさがしてみたところ、スタジアムの(改修)設計者は南アフリカのBoogertman+Partnersという事務所のようだ。

写真で見ると鳥かご状の外壁は曲面のパネルであり、編んでいるわけではなくフラットな仕上げであるが、色使いと夜光を漏らす小さな開口部が籠のような印象をあたえている。この外壁は、被膜の機能(優秀な素材とのこと)だけのようであり、構造は負担していないようだ。鳥の巣の針金状の一本一本が(?なかには飾りもあるだろうが)構造を担っていたのとは違うことになる。

いろんなスタジアムを見ることもワールドカップのもうひとつの楽しみだ。それにしても、陸上トラックのないサッカー専用のスタジアムがうらやましくもある。

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