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2010年6月 5日 (土)

タイトルが?

201005264416 『性欲の文化史』井上章一編、講談社メチエ、2008

井上氏の著作だとおもって借りてきたら編著だった。執筆者は「性欲研究会」の面々。かつて、氏が風俗の研究をはじめたころ、性欲に関する研究会を組織したそうだが、そのときは、正式名称に「性欲」を冠することをためらったそうだ。しかし、ついに氏は開き直り、堂々と性欲研究会の看板をあげることになった。その成果がこの2冊である。

五十嵐太郎さんのブックガイドで井上氏の近作を知り、読んでみたくなって図書館で検索した。お目当ての「伊勢神宮」はなかったのだが、この本はじめいくつかの本があった。都城市立図書館では、検索結果をプリントできる機能があり、この本とやはり井上氏著の「日本の女が好きである」(PHP研究所、2008)をプリントした。

その用紙を持って書棚を探していたら、顔見知りの女性スタッフがいて、「探しましょうか?」と声を掛けてくれた。さすがに、ちょっとタイトルがやらしい本だったので、見られたくないという意識があり「いや、大丈夫です」と答えたのだが、親切な彼女は、わたしから紙をひったくって行ってしまった。さすがにプロ、あっという間にその本を持ってきてくれた。

いまさら、この程度のことで恥ずかしがる年齢でもないし、エロスは文化の源泉でもあるのだから、なんの躊躇する必要もないことは承知しているのだが、やはりちょっと恥ずかしかった。「井上さん、もっとタイトルを考えてよ」と愚痴をこぼしたくなるが、考えてみたら、このタイトルだからわたしは興味をもったのであり、読む気になったのである。他のタイトルだったら読むことはなかっただろうから、これでいいのである。

『性欲の文化史2』には、井上氏の「桂離宮にエロスを読む」という文章が収録されている。桂離宮は日本を代表する建築のひとつであり、内外から高い評価を受け、これまでにたくさんの写真集や論考が出版されている。しかし、エロスと結びつけた内容は寡聞にして知らない。しかし、すでにかなり前、さる高名(故人)な美術批評家が離宮の間取りを分析し、離宮を造営した皇子の性愛の空間であるという説を提起したことがあるそうだが、その後、建築史的な研究により離宮の造営の歴史が明らかにされ、その説は破たんしているという。

しかし、離宮とエロスの関係ではなく、数寄屋建築とエロスの相関関係についておもしろい事例を教えてくれていて、数寄屋づくりは、かつては妾宅の意匠だったということである。現在の建築学では、そんなことにはまったく言及しないが、井上氏の取材した古老からは、そんな言説がいくつか聞き取れているという。

ジャパニーズ美意識の象徴のように扱われる数寄屋普請だが、そんな下ネタ的な含意があったことを学問の世界は意識的に排除する。それは建築の世界にかぎらない。そんな傾向に対する反発や性愛に関する正直な好奇心が氏の風俗転向の理由でもあるそうだ。なるほど、性愛を排除した文化や歴史研究は嘘くさい。たとえば、春画を除いて浮世絵を語ることはできないだろうし、武将のそばに控える稚児の存在や武士のたしなみともいわれた衆道の存在などなど。文学やアニメ、映画だけでなくもっと密接にエロスと日本近代史はかかわっているはずだ。AVの隆盛をみるまでもなく、この分野は日本のもっとも得意とするものではないだろうか。

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