建築家の仕事
サブタイトルに「1970-2007傑作住宅60」とあるが、そのほとんどは2000年以降のもののようだ。ただし、建築界に名高い原広司の「原(自)邸」や東孝光の「塔の家」なども収録しているので、1970~ということになる。
日本の住宅建築は世界でもっとも質が高いという説を聞いたことがあるが、さもありなんと肯かせる個性的で魅力的な住宅がたくさん収録されている。中庭、光と眺望あふれる天井の高いリビング、ユニークな造形。しかし、それは社会のごく一部のものであり、あいかわらずわたしたちの回りにはごく普通の住宅と建物があふれかえっていて、住宅の設計とは、部屋の間取りを平面パズルのように組み合わせたものでしかない。それがけして悪いことではないのだろうが、もっと自由に柔軟に住宅と建築を考えられればいいとは思う。本書にはローコストの物件も多く、建築家は金持ちの遊び相手ではないし、住宅設計に建築家を起用することの優位性を教えてくれる。
ようは、建築家は敷居が高いし設計料がもったいないのである。10%程度の設計料は建築家の作業量と住宅の質の担保に対する当然の報酬だし、人生の過半を占める住宅にそれだけの思考とお金をかけて当然だろうが、そんな理解は一般的ではないので、工務店数社の合い見積にして設計料程度の施工費は吸収できますという理屈を持ち出さざるを得ない。
もちろん、ここに出てくる素敵な住宅は、そんな理屈を持ち出すまでもなく、「いい家が欲しい、それには信頼できる建築家に依頼するしかない」という施主の意思でつくられたものばかりだ。だからその愛情に建築家がこたえたのである。
ただ、建築家が敷居が高いと感じられているのであれば、それは建築家の責任だ。社会につながっていないのであるから反省するしかない。
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