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2009年11月28日 (土)

「大向うの人々」歌舞伎座三階人情ばなし

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山川静夫 著、講談社刊

山川さんは元NHKのアナウンサー。わたしにもなじみのあるなつかしさを感じる人だ。そういえばテレビで見なくなって久しい。その山川さんは学生時代からの歌舞伎の大ファンであり、「大向う」という歌舞伎劇場でおなじみの、ひいきの役者に向かって、「オモダカ屋!」とか「播磨屋!」「日本一!」だとかの掛け声をかける人物でもあった。

「木戸御免」といって、「大向う」の人たちは入場料は不要であり、顔パスで劇場に出入りできるという。歌舞伎座はもちろんのこと、国立劇場でもそうらしい。「大向う」は歌舞伎の一部であり、それも重要な役割を担っていることを劇場も認めているからだろう。

「大向う」にはいくつかの会があり、その会員として認められた人だけがこの「木戸御免」の特権をもつそうだ。もっとも、掛け声を掛けるのは会員でなくても観客なら行使できるわけであり、山川さんも学生時代に歌舞伎に「はまり」自前で入場料を払って通いつめ、「大向う」の定席でもある劇場の3階席から掛け声を掛けながら観劇の修練を重ねてきた。そんな姿が会員に認められ、入会を許されたのだという。

氏の経歴はただの「大向う」では終わらない。なんと、歌舞伎の舞台に声色で出演しているのだが、そのあたりは長くなるので本書を読んでいただきたい。歌舞伎がもっと庶民の日常と密接にかかわっていた時代のおもしろいエピソードでもある。

氏が数十年間通いつめた東京・銀座の歌舞伎座は、取り壊しての建て直しが決まったそうだ。どのような建築になるのか承知していないが、優秀な建築家による新たな劇場が提案されることだろう。楽しみに待ちたい。そして、どんなにモダン、斬新な劇場になっても、歌舞伎から「大向う」の掛け声が消えることはあるまい。歌舞伎が庶民とともにあるかぎり。

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