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2009年1月15日 (木)

建築バカボンド

200901082291 著者:岡村泰之 理論社 2008年11月刊 1400円+税

日本一コストパフォーマンスの高い、ウソをつかない家づくりでひっぱりだこの建築家がバカ正直に語る。とオビにある。

かけひきをしない、ウソをつかない。とてもいいポリシーだ。建築主、工務店、設計者その三者が幸福な関係で家をつくることがベストである。そのためにはコミュニケーションが重要なのはいうまでもない。かけひきやウソはそれを阻害し、3者の利益のバランスを崩そうとする。だからいい家ができない。

わたしは建築家という職業を選んでよかったとおもうが、それは建築という行為が、多くは建築主にとっての幸福なことだからだ。住宅にしろ店舗にしろビルにしても、建築主のもっとも期待と不安と希望などのオモイの詰まったモノを共同で作り上げていく作業が楽しくないわけがない。だから建築設計という儲からない仕事を続けていけるし、やりたいという人がいるのだろう。

もしわたしが、ベンツにでも乗るようなことがあったら、志が変節しモノづくりを放棄したか、宝くじが当たったか玉輿に乗ったかとおもってくれればいい。わたしの知るかぎり、まじめで才能のある建築家はたいてい貧乏である。だから、昔は金持ちしか建築家にはなれなかったのだろうが、貧乏人(精神の)が建築をするようになって質が落ちる。欲に目がくらむからだ。姉葉を筆頭に、設計のよしあしよりビジネスを重視する設計者はゴマンといる。しかし、志のある人もゴマンといる。みな、オレは志があるとおもいつつ、欲と経済のくびきからは逃れられないので、あとはどこで踏みとどまるか、どこまで情熱があるかの問題だろうが、少なくともアンド-やイソザキなど著名な建築家や本書の著者である岡村氏がゴルフや高級車にうつつを抜かしているとはおもえない。

岡村さんは施主の言い分を聞くことをモット-とする。しかし、その言いなりにはならない。それは建築家の仕事ではないからだ。その希望を消化し、本質を見極め、かつ昇華させて建築主を別な次元に連れていってくれるのだ。

氏は見積を工務店に依頼する際、明細に工事原価を記入するように求めるそうだ。画期的な試みである。そのうえに適正な管理費と利潤を明示させるのである。通常工務店から提示される見積書は、ひとつひとつの工事項目ごとに、下職から上がってきた原価に20%程度のマ-ジンが乗せられている。そして、工務店の利益や管理費はかなり低く見積もられていたり、最後に大幅な値引きで調整されていたりしてほんとうの工事費はブラックボックス化している。業界の慣習といってしまえばそれまでだが、そんな作文に等しい見積書をもとに工事契約しているのが現状であり、工事中に変更があると、値引き率や按分などといって複雑な計算がなされる。

建築費に関する不信感や疑心暗鬼のもとは、このような不明朗な会計システムにあるのだから、それをオ-プンにせよと氏は言っているのだ。さすがはウソをつかない家づくりである。それに応じる工務店もいるそうなので、案ずるより生むが安し、やってみればいいのであった。

岡村さんのようなすてきな建築家がいて、わたしたちの住宅の設計をしてくれるこの国は、たぶんいい国になったとおもっていいのだろう。

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