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2008年8月27日 (水)

中国語はカタカナで?

北京オリンピックの雑感をひとつ。

開会式の選手入場で、入場の順番はその国の中国語による漢字表記の画数の少ない順だとのことで、さすが漢字の母国・中国らしいアイデアに感心した。しかし、その後、テレビや新聞でいろんな国名の漢字表記をいくつか教えてもらい、美国がアメリカであることや、200以上の国を漢字表記することのたいへんさと想像力のたくさましさに驚いたり感嘆したりした。ちなみに、日本は「日本」であるし、韓国も「韓国」だったようだが、他の多くの国の漢字表記はクイズのようであり、ちんぷんかんぷんだった。かつて、中華帝国以外の国には、夷、倭、蛮など蔑視的な傾向の文字を使用して表記した歴史をひもとくまでもなく、表意文字である漢字をもちいて、人間が恣意的にその国の表記をなさざる得ないことへの困難を感じる。こんなとき、カタカナがあればとても便利だ。

また、野球の会場となった五■松球場は、大手ウエブサイトであるヤフ-でさえ、中央の■に※を付して「木ヘンに果」と表示してあり、中国には日本にない漢字が通用していることを知らせてくれる。その点、同じメディアでも雑誌・新聞といった印刷物では、きちんと木ヘンに果を印字して表示してあったところに、メディアの姿勢と歴史を感じたりもする。もちろん、日本にも日本でしか通用しない漢字があり、おなじ漢字文化圏とおもわれる日中それぞれの事情があるのだが、オリンピックの国名を記す先導のプラカ-ドをみると、簡体化のすすんだ中国では、日本とはまったく異なる文字を使用しているのだと理解した方がよさそうな気がした。

ところで、中国の地名や人名は、日本では漢字で表記されている。たとえ、野球場の「木ヘンに果」のように、日本にない字や、日本ではほとんど使用されない特殊な部類の漢字でも、すべて漢字で表記されるのが原則であり、カタカナで表記することはまずない。「コ・キントウ」主席の字を、胡錦濤とかろうじて表示できたが、入力にかなり手間取った。他の指導部の名前となるとおぼつかないが、メディアはきちんと漢字で表現する。110mハ-ドルを棄権した中国の英雄は「劉翔」と書くが、三国志くらいでしか日本で劉の字を見ることはない。また、その読みは「リュウショウ」と言っていたが、これは日本語よみだろう。毛沢東と書いて「モウタクトウ」と日本では呼ぶが、実際はマオ・ティントンに近いそうだ。北京だって日本語ではペキンと呼ぶが、大書きされたアルファベット表記に従えば、ペイジンと呼んだほうがよさそうだ。実際の発音はともかく、ペキン、上海(シャンハイ)、香港(ホンコン)は中国での発音に近い読み方をするとして、重慶という重工業都市があるが、こちらはジュウケイと日本語では呼ぶし、地震のあった成都はセイトと呼ばれていた。しかし、これらも現地の発音ではチョンチン、チョントゥ-が近いようであり、中国の地名人名をどう日本語で表現するかについては統一性にかき、苦悩しているようだ。

一方、おなじ漢字文化圏に属する韓半島の地名人名はどう日本で表記されるかというと、近ごろはカタカナ表記が多いようだ。野球の主砲はイ・スンヨプと書かれる。さいきんではソウルを京城とは書かなくなった。ピョンヤン、プサンしかりである。トップはあいかわらず李明博だし金正日だが、昔のように金日成をキンニッセイとは読まず、キムイルソンという。李明博と金正日は平明な漢字なのとトップなので気をつかって漢字表記なのかもしれないが、6者協議などに登場するナンバ-2クラスや側近などはカタカナだけの表記も多くみられる。このように、韓国や北朝鮮の表記には、カタカナ化が進行しているが、これは、両国とも漢字をほとんど使わなくなっているという事情もあるのだろう。

おそらく、こういう場合の表記は、相手の意向をある程度尊重することになっているのだろうし、マスコミの人たちは、とっくに中国語を日本語で表現する表記法について内部で議論しているに違いない。漢字の国・中国といえども、日本と発音がまったく違うのであるから、日本語で表記する場合は、すべてカタカナで書いたほうがすっきりするし、まして、簡体化でここまで変化してきた中国の漢字をみると、どこまで漢字表記に付き合えるのか疑問でもある。

これからも中国の経済成長は続くだろう。13億(将来は15億)の人間がいる中国は、世界最大の市場でありつづける。世界における中国語の重要性もニ-ズもたかまるいっぽうだろう。現在では日本語もそれなりに重要な地位を占めているのだろうが、これから、世界は本気で漢字を相手にせざるえなくなる。そのとき、日本と中国という2種類の異なった漢字があることになるが、世界はおそらく中国のものを標準とするのではないか。パソコンの性能は漢字という書体の複雑性を軽々と乗り越えるだろうが、グロ-バリズムはわたしたちに統一した漢字の使用を迫ってくるのではないだろうか。そんな将来に備えて、日本のマスコミが中国語の漢字表記に付き合っているというのは深読みに過ぎるだろうが。

さいごに、日本人の人名の英字表記についてひとこと。オリンピックの中継画面は、国際映像であり国旗と英字3つの国名符号(日本ならJPN)とともに選手名が英字で表示される。それによると、ほとんどの日本選手がYasumi HIRAKAWAのように英語風に表示されていたようだ。たまにHIRAKAWA Yasumiという選手もいたような気もするが、あれはだれが登録しているのだろう。事務局が機械的に流しているのか、選手本人が書きこんでいるのだろうか。もし、わたしが自分の名の英字表記を求められたら、ためらわずにHIRAKAWA YASUMIとする。ファ-ストネ-ム(日本でいう名の部分)を小文字で書いたほうが理解のたすけになるのなら、そこまではこだわらない。そういえば、クレジットカ-ドの申込書にHIRAKAWA YASUMIとはっきり書いているのに、送ってきたきたカ-ドにはYASUMI HIRAKAWAとわざわざひっくりかえして刻印されてくる。たぶん気を利かしてくれたつもりなのだろうが、よけいなお世話だ。

本人の好みでそうするのならどうでもいいことだが、日本人は勘違いしている人が多いとおもう。英語では名が先にきて姓があとにくるのではなく、英語及び類縁の言語を母国語とする人たちは、名(ファ-ストネ-ム)を先に書き、姓(ファミリ-ネ-ム)をあとにもってくるだけのことである。したがって、日本人を英語表記する場合、順序を変える必要はない。また、英語だけが世界の言語ではなく、ヨ-ロッパでもハンガリ-は日本とおなじく姓名の順であるという。相手に合わせてひっくり返すことをよしとする人は、行き先ごとに調べる必要があるし、ビル・クリントンやジョ-ジ・ブッシュは、日本にきたらクリントン・ビルやブッシュ・ジョ-ジと呼ばなければならないだろう。相手の習慣にあわすことを尊重するのであれば、そのようにしなければ礼を失するのではないか。

毛沢東はアメリカに行ってもマオ・ティントンだろう、まさかティントン・マオではあるまいとおもっていたがどうなのだろう。オリンピックの中国選手名はよく見ていなかったので不明だが、韓国の選手は英語風に名姓の順で表記している人が多かった。イ・スンヨプはS Y LEEと背中にあり、他の選手も同様である。姓の共通する人が多い韓国らしい表示なのかもしれないし、韓国のエリ-ト層はほとんとアメリカ留学組らしいので、アメリカナイズもあるのかもしれない。

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