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2008年1月 9日 (水)

磯さんとの再会

近代建築を考える唯一の専門機関であるDOCOMOMO Japanの重鎮Kさんからメ-ルがきて、旧東京相互銀行本店(設計:前川國男、東京都中央区1952)について、所有者から「解体」の返事が来たとのことです。DOCOMOMOでは、この建物の高い建築的価値に鑑み、ぜひ保存をという要望書を所有者である㈱三井銀行へ出していたのですが、その返書が1月8日付で届いたものです。

旧東京相互銀行本店はDOCOMOMOJapanの選定建物にも選ばれていて、そのことは、わが都城市民会館とおなじです。これまで、DOCOMOMOJapanは全国の近代建築のなかから、125のすぐれた建物を選定しています。都城市民会館とおなじく、解体の危機にあった建物がいくつかあったのですが、さいわい、これまで解体されたものはありませんでした(数棟のなかで部分的に解体されたものはある)。しかし、今回の決定でDOCOMOMOJapanの選定建築物でも解体されるという事例が出てくることになり、DOCOMOMO選定という歯止めが効かなくなることが危惧されます。

わたしは、都城市民会館がDOCOMOMOJapanに選定された時、これまで選定建築物で壊されたものがないことを、ある意味、勇気と元気の源泉にしていました。結果、都城市民会館の場合は幸いに存続という結論になり、そのことに一縷の光明と可能性を期待していたのですが、ちょっと残念なことです。しかし、まだ解体が始まったわけではありませんので、まだわかりませんが、かなり厳しい状況です。

旧東京相互銀行本店を、わたしは意識して見学したことはないので、その価値についてコメントすることはできませんが、写真でみるかぎりでは、箱型の近代的なオフィスビルであり、華麗な装飾があるわけではなく、一般的な目には、ただの古いオフィスビルにしか見えないということもあるでしょう。市民会館のように「キャラが立つ」建築ですと、よきにしろ悪しきにしろ、「なんじゃこれは」という強烈な印象を見る人に与えますので、「これは残すべきですよ」と言いやすいことはあります。この銀行のような、なにげないオフィスビルに見える建物にこそ、専門的に見れば近代建築の進化してきた葛藤があらわれていて、高い建築的価値を見出され、そのことが文化財として保護される対象になるのでしょうが、まだまだ現在の建築界と、日本の社会そのものがそのことに注意を払う余裕がないことを示していて、建築界に身を置くもののひとりとしては、残念であり忸怩たるおもいです。

市民会館の保存運動に尽力してくれたDOCOMOMOのKさんとしては、わたしよりはるかにそのへんの造詣は深いものがあり、新年そうそう、そのやりきれない気持ちをおもんばかることしかできません。

ところで、きょう「Casa BURUTUS・カ-サブル-タス」という建築誌の取材チ-ムがわたしの事務所に来てくれました。引率してくれたのは、昨年、わたしたちが企画した2回の市民会館のシンポジウムにかけつけてくれた会館の熱烈なファンである建築ジャ-ナリストの磯さんです。磯さんは昨年7月にわたしたちが開催した「都城市民会館厄払い」イベントの「DOCOMOMO選記念展」と「DOCOMOMOフォ-ラム都城」に、自費でスタッフを連れて参加してくれたばかりでなく、五十嵐太郎さん、倉方俊輔さんという、現在の日本建築界を代表する歴史学者を伴ってきてくれました。五十嵐さんはその後、全国紙に市民会館の保存を訴える文章を書いてくれたりして、磯さんこそが市民会館保存の最大の功労者ではなかったのかと考えていいほどです。

その磯さんと「カ-サ」の編集者、カメラマン氏の3人の訪問を受け、これまでの市民会館の保存運動のことについて語りました。結局、都城市民会館の場合は、南九州大学のホワイトナイト的な登場という劇的な幕切れであり、直接、保存運動の成果として会館が残ったとも言いきれない、運動の実質的な達成感がないといったらわるいのかもしれませんが、なんとなく?マ-クのつく終わり方だっものですから、今回の保存劇は、全国的な事例からすると、きわめて特殊な例なのかもしれないとおもいます。でも、物理的・経済的・建築的な価値うんぬんより、維持費がたいへんだ、あたらしいものに建て替えて経済的な効率を優先したいなあど、きわめて政治がらみで、建築的価値とは離れた存続・解体議論であるこの問題の深層を、全国的に、もっとも象徴しているのかもしれませんね、なんて話をしました。

とりあえず、市民会館は残りました。あの独特な建築キャラはまだしばらく見ることができます。これは、わたしの初夢なのかもしれませんが、願わくば、都城市民会館が数十年後、ユネスコの世界遺産に登録されますことを予言します。シドニ-のオペラハウスは、昨年、世界遺産に登録されました。さいきんでは、世界の近代建築のいくつかが世界遺産になってます。そのなかでも、シドニ-はいちばん新しいもので、たしか、1973年の完成ですので、市民会館より若い建物です。シドニ-の海の上に白鳥を模したオペラハウスがあり、南九州の山の中にずんぐりむっくりの鉄カブトがあります。わたしは、都城市民会館のその姿を、けしてシドニ-のものと遜色がないものとして考えています。

国土交通省の法改正に起因する建築確認申請の遅延による経済的損失が問題になっていますが、2008年が建築界と市民生活にとって、いい年となりますことを祈ります。今回の取材による近代建築保存を特集した「CasaBURUTUS」3月号は2月10日に発売です。わたしの事務所へ来る前、県庁に行って東国原知事へも、この件で30分ほどインタビュ-してきたそうです。どんな話が聞けたのか楽しみです。ぜひ、読んでみてください。

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