町に住まう知恵
『町に住まう知恵』谷 直樹 著 平凡社 刊
サブタイトルが「上方三都のライフスタイル」とある。上方は関西方面であるので、現在なら大阪・京都・神戸となるところだろうが、この時代(江戸時代)は大阪・京都まではいいが、もうひとつは神戸が抜けて堺が入る。
江戸時代の日本の都市が、完全なるリサイクル社会であったことはよく知られている。捨てるものはほとんどなかったのだ。社会全体の消費するエネルギ-の総量も現在とは比較にならないほど小さいので、理想的な自給自足のエコ環境にあり、当時、世界有数の人工を擁した大都市でありながら、清潔に秩序よく都市の運営がなされていたことは特記してよいとおもう。同時期のヨ-ロッパの諸都市が糞尿にまみれていたことをおもうと、なおさら優れたシステムができていたものだとおもう。
さて、本書は上方三都の町屋のシステムを詳細に検討したもの。町屋とは、都市内にある民間の建物のことで、長屋を含む住居や商家のことである。大通りにはミセと呼ばれる店舗が軒を並べ、ミセの奥は細長い敷地割に沿って、住居部、蔵と続く。通りの両側がひとつの町を形成するので、防火造りの蔵が町の境界に立ち並ぶことになり、町の防火上もつごうがいいのある。また、横丁や路地裏を利用して長屋造りの小さな住居がその隙間を埋めている。こうして低層高密度な都市が形成されるシステムは、三都共通のものだが、街並にはそれぞれ三都らしい建築的な特徴があるのを本書は詳細に記述する。
著者は「大阪市立住まいのミュ-ジアム」の館長であった。巻末にその内容が記されている。江戸時代の町屋を忠実に復元したおもしろそうな博物館である。機会をみつけてぜひ行ってみよう。本棚に置いておきたい本。
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